公開日:2026.03.17
【産学連携】東洋大学×アスマーク、1万人規模の調査データを用いた実践型PBL教育の最終報告会をレポート
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【産学連携】
東洋大学×アスマーク
1万人規模の調査データを用いた実践型PBL教育の最終報告会をレポート
株式会社アスマークは、2025年9月より東洋大学経営学部西村孝史教授のゼミを対象に、1万人規模の実証データを無償提供することでPBL(Project-BasedLearning)教育を支援してまいりました。2026年1月30日の成果報告会をもって完了した本プロジェクトの社会的な価値は、実証データに基づく人事課題の解決と、教育とビジネスのミスマッチ解消にあります。
学生は提供データを活用し、「管理職志向のない定着志向人材の心理的背景」や「ハラスメントが転職・退職の意思決定に与える影響」、「残業とモチベーションが退職意向に与える影響」といった人事課題を解明。具体的には、ハラスメントが転職意思を強く刺激する実態や、非管理職の意欲維持には月45時間の残業が境界線となることを客観的に導き出しました。
当社は今後とも、実証データの提供を通じてこうした教育現場への支援を継続し、データに基づいた客観的な人事管理の普及と、実学に寄与する産学連携の発展に貢献してまいります。
【関連リンク】東洋大学(西村教授)へ1万人規模の実証データを活用した統計・データ分析PBL教育を支援
成果報告会概要
実施概要
日程 :2026年1月30日(金)
場所 :東洋大学
発表者:東洋大学 経営学部 西村ゼミ生(主に2年生)
協力 :株式会社アスマーク
プログラム構成
● 西村ゼミの概要
● 分析発表①:非管理職キャリア戦略チーム
● 分析発表②:職場環境改善チーム
● 分析発表③:人材定着戦略チーム
● 質疑応答・フィードバック



学生発表内容の概要
- 非管理職キャリア戦略チーム
このチームは、管理職になることを望まないが離職意思は低い層を分析し、その特徴を複数の要因から明らかにしました。 - 仮説の起点
近年の日本企業における管理職の負担増(罰ゲーム化)やポスト減少という社会的背景、および先行研究から、昇進を望まない一方で職場定着を希望する人材の心理的背景を解明することを起点としています。 - 主に使った分析
将来の管理職意欲と職場定着意向を組み合わせたクロス集計によるターゲット抽出。
説明変数(「職場環境」「貢献意欲」「成長意欲」など)を合成するための因子分析。
属性をコントロール変数とした重回帰分析。 - 主な提言
管理職の仕事内容が見えにくいことで生じる不安を解消するため、正式な昇進の前に「お試し期間」を設けるなどのステップを導入することが解決策になるのではないかと考えます。あわせて、昇進前後のマネジメント研修やOJTを充実させることで、業務遂行への自信を育む支援が求められます。また、運用面においては、管理職の母数を増やして一人あたりの負担を分散させる構造改革や、管理職が抱える悩みを解消するための専門的な相談センターを設置するといった施策により、責任や業務の複雑さに対する心理的ハードルを下げることが重要です。
- 職場環境改善チーム
職場におけるハラスメントが転職・退職の意思決定に与える影響を明らかにしました。 - 仮説の起点
メンバー自身のアルバイト先において、同僚がハラスメントを受けた際に「辞める・悩む・店舗を変える」など行動が分かれる場面を目の当たりにし、なぜ人によって選択が異なるのかという疑問を抱いたことが起点です。これに、ハラスメントがメンタル悪化や職場全体の士気低下を招き、平均時給以上の損失をもたらすとした先行研究を組み合わせて仮説を構築しました。 - 主に使った分析
相関分析を用い、資本金や売上高といった企業規模が小さいほどハラスメントが起きやすい傾向(負の相関)を確認。
全10,000件のデータとハラスメント疑いのある1,772件を比較し、営業職・製造業など発生率が有意に高い属性を抽出。
重回帰分析により、ハラスメントが「転職意思」には中程度の相関を示す一方で、「退職意思」への影響は限定的であることを算出。 - 主な提言
ハラスメントは表面的な離職率には現れにくい「転職による人材流出」を引き起こすため、企業は離職率の低さに安住せず問題を直視する必要があります。具体的な施策として、テレワーク等の「自由な働き方」と、役割や目標達成度に基づく「成果への公正な評価」を掛け合わせた制度の導入が考えられます。ハラスメント対策と評価制度を切り離さず、心理的安全性を確保するマネジメントを一体のものとして設計することが重要です。
- 人材定着戦略チーム
このチームは、残業とモチベーションが退職意向に与える影響を明らかにしました。 - 仮説の起点
「やる気のある人ほど、逆に仕事を辞めてしまうことが多いのではないか」という身近な観察に基づいた疑問 と、離職意思と人事評価の間に見られる非線形(U字型)関係を示した先行研究を起点としています。 - 主に使った分析
重回帰分析を用い、モチベーションと退職意欲の関係を検証するため、二乗項を投入したモデルを作成 。
月の残業時間別のグループ(「なし」から「60時間〜」の9段階)に分け、退職意欲およびモチベーションの平均値の差を検定 。
管理職と非管理職でデータを分け、それぞれの残業時間が各意欲に与える影響を個別に算出する層化分析を実施 。 - 主な提言
残業が従業員にもたらす「没頭・やりがい」という正の側面と、「疲弊・負荷」という負の側面の両面を正しく認識し、労働時間を適切に制御することが求められます。具体的には、36協定の原則上限である月45時間を遵守することが、持続的な労働と退職意欲の抑制において重要な境界点となります。また、担っている役割や責任の重さによって残業時間への耐性が異なるため、管理職(月60時間)と非管理職(月45時間)で許容範囲が違うことを考慮した、組織的な時間管理体制を構築することが、優秀な人材の流出を防ぐ鍵となります。
参加した学生の振り返り(一部抜粋)
Q. 発表に向けて、チーム内で特に重視して話し合った点を教えてください。
A. 仮説が立証されなかった後の行動です。研究動機や段取りを踏まえると「仮説が立証されない」という可能性を排除して研究を進めていたため、軌道修正案やその後のテーマを考えていませんでした。そこで、仮説が立証されなかったことを受けて、その後の自分たちの興味を研究として落とし込んでいくうえで何が必要か、自分たちで調べながら、どういった研究をすれば求めている結果が得られるかを話し合い、考えました。
Q. 分析や発表の過程で、あなたが意識して工夫した点を教えてください。
A. ボックスアンドアローの設計において、複数の因果関係をひとつの研究にするため、因果関係同士に繋がりを持たせられるように設計や使用データを工夫しました。
Q. 分析や発表の過程で、あなたが悩んだ点や難しかった点があれば教えてください。
A. 「内容を確実に伝えるための反復」と「印象を強めるための簡潔さ」のどちらを選ぶべきかについて悩みました。
Q. 分析や発表を通して、あなたが学んだ点を教えてください。
A. 広い視点を持つことの大切さを学びました。仮説がすべて支持されることはなく、たとえ違ったとしても、そこからより深い分析につなげたり、より良いものを作るためには、思考を柔らかくして新しい視点を出すことが大切だと分かりました。
A.初めて膨大なデータを扱って分析を行ったため、分からないことが多くありました。今回の発表を通して学んだことは多くありましたが、特に、研究テーマによって研究を進めることの難しさや、どの変数を使うか・分析方法によって答えが変わっていくことの面白さを知ることができました。
Q. 今回の取り組み全体を通して、印象に残った点があれば教えてください。
A. 分析の楽しさを知ることができた点です。今回、個人では集めることができない量のデータをいただけたことで、分析を深めることができました。仮説が棄却された時に「これを入れてみたらどうかな」など新しい意見を出し、それを実際に分析できたことがとても印象的で、楽しかったです。
成果発表会を終えて~西村 孝史 先生(経営学部 教授)へのインタビュー~
発表会の後、経営学部 西村 孝史 先生にインタビューさせていただきました。
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西村 孝史 先生 東洋大学 経営学部 教授 略歴 株式会社日立製作所にて人事業務に従事後,2005年に同社を退職し大学院に進学。2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(商学,一橋大学)。徳島大学,東京理科大学,東京都立大学勤務を経て2025年より現大学に勤務。2021年4月から2022年3月の間,Henley Business School, University of Readingにvisiting scholarとして滞在。 研究分野 人的資源管理論 著書 『職場のソーシャル・キャピタル: 人的資源管理が創り出す個と組織の関係性』中央経済社,2024年.,『1からの人的資源管理』碩学舎 (西村孝史・島貫智行・西岡由美(編著), 2022年 受賞歴 2025年 第24回日本労務学会学術賞,2025年 第4回日本社会関係学会賞 最優秀賞 |
| Q | 先生が現在取り組まれているテーマや重点分野を、簡単にご紹介ください。 |
| A | いくつかのテーマに取り組んでいます。1つは,人事施策が組織力およびウェルビーイングを高める仕組み,2つ目は,同じ組織なのに人事施策が有効に機能する人としない人との違い,3つ目は,人事異動を通じて人が成長する仕組み,などに取り組んでいます。1つ目は,職場の力を単純和ではなく,何かしらの方法でシナジーを捉える方法を模索しており,ソーシャル・キャピタルという概念に着目しています。2つ目のテーマは,1つ目の点とも関連するのですが,HR帰属というもので,同じ企業で働く従業員であっても,「なぜその施策が導入されたのか」という理由が異なると,人事施策の効果が異なる,というものです。3つ目は,企業では本人の成長を意図したジョブローテーションが行われますが,なぜジョブローテーションをすると成長するのかは分かっていません。私はこのメカニズムの解明をしてみたいと考えています。 |
| Q | 今回の講義は、学生にとってどのような意義があるとお考えでしょうか。学生が得られる学びや期待される効果についてお伺いします。 |
| A | 大きく2つの意図がありました。1つは,学生にX とYといった 論理的な構造を持ってもらいたいということです。私も企業で働いた時そうだったのですが,つい解決策であるHowを求めがちです。そうではなく,「何が問題なのか」「なぜ起きているのか」といったWhatやWhyを問いに立てる癖を今回のプロジェクトで身につけて欲しいと期待していました。問題を構造化できるようになれば,目先の解決策に踊らされず,本質的な問題に食い込んだ提言も可能になります。 2つ目は,操作化です。特に今回のプロジェクトでは具体と抽象の往復運動がとても鍛えられます。なぜなら今回は与えられたデータ(=2次データ)ということで,いわゆる学術研究の中でも難しい部類に入ります。自分たちで調査をする場合,定番の概念を調べるための尺度というものがあり,それらを用いることで学術概念を測定し,概念間の関係性を検討します。しかし,今回は,すでに与えられたデータをもとに「この項目が何の概念に該当するのか」ということを質問項目から類推して抽象化をして考える必要があり,その意味では具体と抽象の往復運動(+想像力)が求められます。 また,今回のプロジェクトに参加しているゼミが組織行動論を勉強していれば,この調査項目の中に色々な概念が潜んでいることに気が付きます。コミットメントであったり公正性の概念であったりワークエンゲージメント等,丁寧に作り込まれているので,本プロジェクトは経営学部の学生にとっては正に有意義な分析ツールあるいは分析教材になるに違いないと思います。 実は,彼ら彼女らが取り組んだこの具体と抽象の往復運動は,実はビジネススクールで行っているビジネスケースの討議とほぼ一緒でゼミ生は頭の中でこの運動を繰り返していたことになります。よって繰り返しになりますが,今回の目的は,一つ目の XとYで考える癖をつける,またゼミ生同士で議論する場合にジャーゴン(専門用語)として独立変数や従属変数,調整変数や媒介変数といった言葉が出てくるようになるということ,もう一つは,具体と抽象の往復運動が目的でした。 |
| Q | 特に印象に残ったことや、企画の進め方など、率直なご感想をお聞かせください。 |
| A | 私は2025年の4月に東洋大学に赴任したため,ゼミ生がほとんどおりません。そのため今回のテーマは,本来であれば3年生が行うべきレベルの内容かと思いますが,敢えて2年生にお願いをしました。正直なところ2年生には大変だったと思いますが,その分,成長としての吸収度合いも大きかったと思います。また分析もかなり荒いレベルだと思いますし,まだまだ改善の余地があることは重々承知しています。その意味ではアスマーク様にご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません。 他方で,印象に残ったことは,普段のゼミでは見出しづらい個々のゼミ生の意外な特徴を知ることが出来た点です。例えば,チーム内で統計が実は一番得意であったとか,パソコン操作が得意など日頃発言が少なくスポットを浴びることが少なかったゼミ生も注目を浴びるようになったこと,また本プロジェクトがコミュニケーション円滑化の潤滑油の役割を果たしたことなどが挙げられます。 |
| Q | 今後の研究や教育現場において、当社のような調査会社がどのように貢献できるとお考えでしょうか。 |
| A | 単純に言えば,貴社がお持ちの各種の調査データを例えば卒業論文のデータで用いられるように公開する,あるいは今回のようなPBLとして統計のリテラシーを伝えるような寄附講座を開講するのが認知度を高めるのと同時に社会貢献も行う方法として一般的だと思います。 あるいは私が貴社の営業担当者ならば,大学生の卒業論文のマーケットに参入して取り込む方法を考えます。多くの学生が苦労しているのは卒業論文におけるデータ集めです。卒業論文で定量分析を行うために多くの大学生がお友達にGoogle Formを使ってデータを集めています。しかし,それではどうしても周囲の友達やアルバイト仲間,特定の大学等サンプルに偏りが生じます。 上記のサンプリングバイアスをクリアするために,例えば寄附講座型のPBL参加者の中でも成績最上位層あるいは貴社のモニターに何回以上回答した人については卒業論文に限った調査データを例えば200サンプル程度20問を無料で提供するなどのスキームを考えます。そうすれば今後インターネット調査を何かしらの形で利用する場合に貴社を調査会社の候補として想起する人も増えるかもしれませんし,寄附講座型のPBLに積極的に参加する学生の金銭的なインセンティブにもなります。また卒業論文のクオリティも上がることが予想されます。 あるいは私が今企画している「未来の人事発掘プロジェクト」というものがあります。これは今回のプロジェクトのある種の拡大版とも言えるものです。例えば,今回のプロジェクトを複数大学及び複数社で行い,特定大学のゼミと組んだ特定企業は約半年程度伴走しながら自社の問題解決のためにデータを提供します。最終報告は全ての参加企業参加および大学が一堂に会して最終発表会を行います。そこで優れたプレゼンテーションをしている学生あるいは分析能力を発揮している学生がいる場合,他大学の学生であったとしても積極的に声掛けをOKとする枠組みを予定しています。 |
西村先生、ご協力いただきありがとうございます。
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